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執筆者の写真Keita Okuhira

はじまりの旅 -道東の旅2章-

最後の秘境知床を目指して


さて、「イーストブルーの冒険」の投稿も

盛り上がってきましたね。


正直なところ、

忘れていて書けないかも…

と心配していましたが、

旅の記憶というのは不思議なもの。


景色、音、匂い、溢れる感情、

まるで昨日のできごとように

鮮明に思い出せるのです。


「昨日」や「今日」と何一つ変わらない

24時間、1日という単位なのに、


体に染みついて、目に焼き付いて、離れません。


そうだな…


そんな記憶に残る瞬間が

1日でも、1秒でも多い、

人生にしたいなと思ったりします。


 

爽やかな朝



目覚ましよりも少し早く目が覚め、

私は眠っている梅村を起こさないように、

そっと外へ飛び出しました。


ひんやりとした早朝の空気、

鳥のさえずり、日常とはまるで違う朝に、

私は大きく伸びをして、

ひとり幸せを噛みしめていました。


実はライダースハウス・クリオネには

無料の温泉が併設されていました。

(銭湯に行った昨日は調整中でした)


誰もいない静かな風呂につかり、

そっとこれからの旅に想いを馳せていました。


さて、そろそろ梅村も起きる頃だろう。


準備をしようと宿に戻りました。

彼はまだ寝ていました。

朝に強いことで世界的に有名な彼でしたが、

相当疲れていたのでしょう。


私がごそごそと荷づくりをしていると

「ああっ」と声を出し、目をあけました。


「おはよう、うわっ、もう出発時間じゃん、ごめん」


彼は重低音のきいた、

バイクのエンジンのような声でそう呟き、

ものすごいスピードで準備を始めました。


いや、すごいな、

私なら時間など気にもせず、

温泉につかりに行くのに…と。


朝から素晴らしい、

彼の人間性に感心してしまいました。


そんな彼の、目覚めてからの

異常にスムーズな準備に助けられ、

ほぼ予定通りに2日目の旅が始まりました。

 

最後の秘境「知床」を目指して


今日の目的地は世界遺産「知床(しれとこ)」。


釧路から車でもかなり時間がかかる場所に

自転車で辿り着こうだなんて、

もう考えるだけでゾクゾクしてきます。


そして、自然が大好きな二人にとって

「知床」は楽しみで仕方がない場所でした。


背後には朝陽に輝く百名山の「斜里岳」


一直線に続く爽やかな斜里の道は

20年北海道で育った二人でさえも、

感動させる素敵な道でした。

 

来たぜ知床



30kmほど走り、

10時頃に知床、ウトロに到着しました。


ウトロはいわゆる知床の拠点であり、

知床のクルーズ船も出ている港町です。


海の香り、

波の音、

港町、釧路を出発し、

北海道にはさみをいれるように

真っ直ぐに北上し、ついに反対側の海までやってきたのです。


「ついに来たな…」


二人は溢れだす喜びや興奮を

静かに胸に抱きしめながら海を眺めていました。

 

伝説の挑戦



それはまさに伝説の挑戦。


見上げると空まで伸びていくほどの

あの「知床峠」を越えようというのです。


実に750m、

スカイツリーを軽々と凌ぐ高さ。


そしてさすが世界遺産知床…

圧倒的な大自然のオーラ、

山々は完全に私たちを無視して堂々と聳え立っています。


ああ、

計画の段階から覚悟はしていたものの、

いざ山を目の前にすると言葉も出てこない…


私たちはひきつった顔を

見合わせ、ひたすらに沈黙しました。


<美しき知床五湖>



まずはウォーミングアップということで

ゆっくりと150mほど高度を上げ、

「知床五湖」を訪れました。


いやはや、すでに厳しい…

視界に広がる大自然に私たちは声をあげました。


なんてことだ、こんな緑色は見たことがない…

今にも叫びをあげそうな、そう、まさに生きた緑色。


飛び出す鹿たちの瞳は刃物のように鋭い。


知床の自然には命のエネルギーが溢れているのです。


「私はこんなに生きているだろうか」


自分の命を恥じてしまうほどに、

うねりをあげ、堂々と地球という大地に命を宿している大自然。

支配するなどもっての他。


「人間は自然に生かされている」


不思議なほどに納得してしまいます。


そんな大自然の中に散りばめられた青い宝石が

「知床五湖」なのです。


緑色のキャンバス、

太陽にきらめく美しい湖、

背景に聳え立つ新緑の山々、

空にとけるように滑らかな稜線、

さらさらと木々をなでる風の音、

肌から伝わる自然の瑞々しさ…


二人はしばらく大自然に心をあずけ、

ただ、うっとりと眺めていました。

 

伝説のジジイ



知床五湖のほとりで、

私たちの前に伝説のジジイが現れました。


「よー、若えの、よく登って来たな」

私と梅村にハリのある声で挨拶したのは

もう70歳近いおじいちゃん。


話を聞けば、

「自転車で百名山」という冒険をしている

まさに伝説のジジイなのです。


少年のような瞳で夢を語るおじいちゃんは

本当に素敵でいた。


いくつになっても

少年のように夢を見続けていたい。


死ぬまで生きたい。


伝説のジジイとの出会いに

二人は大きな希望とエネルギーを

いただいたのでありました。

 

限界への挑戦



エネルギーに満ちた二人はついに

知床峠へのアタックを決意しました。


10kmもこの急斜面を、

たぐり寄せながら登っていくのです。


上手くいっても1時間半。

私と梅村は作戦を立てました。


それがあの有名な作戦、

「お前はお前のやり方で行け!」です。


つまりは個人戦。

体格も走り方も異なる二人、

奥平は立ち漕ぎで体を左右に揺らしながら

グイグイ登るタイプ。


梅村は軽いギアを高速回転させ

スーッと登っていくタイプ。


ここはひとつ、

自分の一番登りやすいやり方で闘おう!

二人は力強く拳を合わせ、

それぞれのスピードで、

知床峠へのアタックを開始しました。


一人で闘わなければならない、

そんな時だってあるよなと、

ひたすら続く登り坂に

噛みつくように登っていきました。

 

登頂!!



あの果てしなく思えた、

峠の頂きに、二人は確かに立っていました。


何かに立ち向かうというのは

こういうことなのではないかと思うわけです。


誰しも大きな夢を見ます。


その道は果てしなく、

まわりの人は「できっこない」と言います。


気の遠くなるような夢に、

自分さえも自信をなくし、

諦めたくなります。

けれども、必ず道は続いています。


山のてっぺんから

決して目をそらさずに、

そう、ひとつひとつペダルを踏み込むように、

地道な努力を続けること。


そうすると必ず、

夢見た山のてっぺんに辿り着くことができます。


果てしない道だからこそ、

まずは目の前の一漕ぎ、一歩を

丁寧に丁寧に踏んでいく。


それが夢を叶える方法なのだと、

教えてくれたのは

自転車でした。

 

「幸せ」ってなんだろう



峠の頂上からさらに聳え立つ百名山、

「羅臼岳」(らうすだけ)を眺めながら

30分ほどしみじみと語る二人。


そんあ二人に羅臼岳は語りかけてきます。

「夢に終わりはねえぞ」と。


辿り着いたその先には

ちゃんときらきらした新たな夢が

私たちを待っていました。


人生はきっとその連続。

「幸せとは目標に向かって歩む加速度」

という言葉を聞いたことがあります。


「辿り着きたい」と踏んでいく、


その一歩一歩こそが、

一歩一歩を踏めるということこそが、


実は「幸せ」に満ちているのだと、

そんなことを考えたりします。

 

ジェットコースター!!



さて、旅路は続きます。

人生山あり、谷あり。

今度は下り!!


二人はジェットコースターのように

爽快に飛ばしていきました。

疲れも吹っ飛んでいきます。


頑張ったあとには

ちゃんとご褒美が待っているのです。


自転車は本当に

人生を教えてくれます。


何も語ることなく静かに

そして、力強く、

私たちに大切なことを気づかせてくれます。

 

羅臼に到着



あっという間に目的地、

羅臼(らうす)にやってきた二人。


ウトロから峠を越えて、

反対側の海、私たちは本当にやってのけたのだと

喜びを分かち合いました。


道の駅では、

そんな二人を祝福するように、

おばあちゃんが美味しいカニを振る舞ってくれました。


ご機嫌になった梅村は、

突然、魚を購入し実家に送っていました。


予定では羅臼の宿で

今日の旅を終えるつもりでした。


しかし、現在午後3時。

下りを時速60kmで飛ばし続けてきた結果、

予想以上に早く到着したのです。


そして、

私と梅村はご機嫌!

こういうときはテンションだ!

「もっと行こうぜ!」


予定通りの旅なんて

まっぴらごめんだ。


二人は予定を変更し、

さらに自転車を漕いで行くのでした。

 

豪雨とハンガーノック



二人は次の町、標津(しべつ)

を目指して勢いよく走り出しました。

約30km。


絶好調の二人ならばやれる。


ぐんぐん進んでいくと、

突然の豪雨が私たちを襲いました。


「ちくしょう!!」

ずぶ濡れになりながら、

海沿いのアップダウンの激しい道を激走しました。


・・・?


あれ、力が入らない…

激走する梅村を何とかとらえたい奥平ですが、

体に力が入りません。


自分の頬を叩き、

エンジンをかけようにも、

雨が体温と気力を奪い去ります。


くそう、

これがハンガーノックというやつか。

自転車は食料や水分がガソリンの代わりです。


それをおろそかにして無理をすると

全く体が動かなくなってしまうのです。


朦朧としていく意識の中で

前を走る梅村の背中だけが希望でした。


「何があってもあの背中だけは見失うなよ」

私は何度も自分に言い聞かせながら、

消えそうな炎を燃やしていました。

 

着いたぞ!標津



日も暮れ、あたりも真っ暗になる頃、

二人は苦労の末目的地、

標津に到着しました。


空腹でふらふらになりながら飛び込んだのは、

標津で有名なサーモンでもなく、

いくらでもなく、


カツ丼でした。


それから、

二人はキャンプ場にテントを張り、

銭湯で疲れを癒しました。


真っ暗闇の中、

意味の分からない説明書に、

お互いイライラしながらテントを組み立てました。


けれど、テントが完成すると、

「ひゃっほー!秘密基地だぜ!!」と

はしゃぎ倒し、その結果疲れ果て、

ぐっすりと眠りにつきました。


明日はどんな旅になるだろう。

テントの中でいっぱいに希望を膨らませる、

二人の旅はまだまだ続くのでありました。

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