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執筆者の写真Keita Okuhira

はじまりの旅 -道東の旅1章-

旅の始まり


さて、やっとことで旅に出発できることとなった

奥平と梅村。


二人は初めての自転車旅に戸惑いながらも

これから始まる冒険に心を躍らせていました。


北海道の東側“道東”をぐるりとまわる

「イーストブルーの冒険」


旅路には幾多の苦難と

そして、素敵な出会いが待っていました。

それでは、冒険のはじまり、はじまり。


 

イーストブルーの冒険



なぜ、イーストブルーなのかというと

道東の海沿いを走るから!

北海道の東側をご存知でしょうか。


最後の秘境世界遺産「知床」をはじめ、

山あり、海あり、鹿やクマが飛び出してくるような

圧倒的な自然が残るエリアなのです。


地図のようなルートでぐるりと一周します。

走行距離は600kmを超えます。


しかも、私たちに与えられた時間はたったの4日間・・・


「いや、無理でしょう」


そう言われるとさらに燃えてしまう二人。

なぜでしょう。


限界に挑戦するとき人は

目を輝かせて飛び込んでいく生き物なのです。


北海道の観光を考えている人にも

その魅力が伝わる投稿になることを願って

言葉を綴ります。

 

出発


夜明け、

まだ薄暗い4時。


二人は希望をいっぱいに膨らませ、

大きな荷物を無理やり自転車にくくりつけて

いよいよ走り出しました。


出発前、梅村のガールフレンド

ふかちゃんが目をうるうるさせながら、

「無事に帰ってきてね…」と

おやつセットを手渡してきました。


遠足かよ!

とツッコミを入れたくなりましたが

人のことでこんな風に涙を流せる彼女は素敵な人だなと

梅村が少し羨ましくて、蹴飛ばしてやりたくなりました。


そうして、

まだひんやりと肌寒い夜明けに

いよいよ飛び出しました。


走り出すともうワクワクが止まりません。

「おいっ!なんかやばいな!!!」

「うぉぉお!!」


叫びながら風を切って走ります。

高ぶる気持ちがグイグイと体を前に引っ張って

私と梅村はどんどん走っていきました。


まだ車も走らない車道を二人で並んで走りながら

交わした言葉を今でも鮮明に記憶しています。


“俺、たぶん今のこの気持ち、

このワクワクした感情を

一生忘れないと思う”


おいおいどうした、

やめてくれよ梅村。


確かにその通りだった。


私もあの日の、

魔法にかけられたようなときめく感情が

どうしても忘れられないのです。


そうきっと、一生。

 

標茶に到着!



50kmを快走し標茶(しべちゃ)に到着。

標茶は釧路川のほとりののどかな町です。


小学校へ登校する子どもたちの視線を釘づけにしながら

私と梅村は風のように走っていきました。


思うわけです。

「大きくなったら旅人になりたい」という子どもが

一人くらいいてもいいじゃないかと。


だから私は子どもたちの横を走り抜けるとき

最高に爽やかに、

最大限のカッコよさを意識して、

(それがカッコいいかは別として)

桜の花びらをのせた春の風のように

走り抜けます。


もしも、もしもですが、

誰かの夢をのせて走ることができるなら、

誰かにエネルギーや希望を配りながら走ることができるなら、

なんて幸せなことなのだろうと考えたりします。


そんなことを思いながら

二人は次の目的地、屈斜路湖(くっしゃろこ)を目指します。

 

美しき自然からの贈り物


さらに30kmほど走り、

林を抜けたとき、

私と梅村は思わず歓声をあげました。


「なんだこれは!!!」

目の前には空を鏡のように映して

青く輝く湖が広がっていました。


快調に飛ばし、昼頃、

私たちは屈斜路湖(くっしゃろこ)に到着したのです。

屈斜路湖はそこらの湖とはレベルが違います。


「いや、まあ綺麗だけど」と思ったそこのあなた、

屈斜路湖の砂浜を触ってみてください。

温かいんです。


これぞ自然のエネルギー!

砂浜を掘ると、なんと温泉が出てきます。


湖の冷たい水で温度を調節しつつ、

自分で足湯が作れてしまうのです。


冬になるとこの温かさを求めて白鳥が飛来します。

まさに「白鳥の湖」なのです。

溢れだす自然のエネルギーに力をもらい、

奥平と梅村は疲れも吹き飛びました。

 

船出



疲れを吹っ飛ばした二人は失態を犯しました。

手漕ぎボートで湖の冒険を始めたのです。


おいおい、90km自転車を漕いで

今度は船を漕ぐのか。


「あまり遠くまで行くんでないよ」


というボート屋のおじちゃんの忠告を無視して

湖の真ん中当たりまで来た頃、

私たちは自分たちの状況を理解しました。


「すげえ、疲れる!!」

まず風が強くて船がなかなか進まない。


そして、船を漕ぐというのはまさに全身運動、

繰り返し重たい荷物を持ち上げるような厳しい運動なのです。


そして今日の旅路はまだ70km以上残っています…

ああ、バカなんじゃないか。


普通二人もいればどちらかが

いや、冷静にやめておこうと気づくはずですが、


奥平と梅村は

「なにそれ、いいね!!!」と思いっきり

飛び込んでしまうのです。


二人は渾身の力を振り絞り

何とか船を戻し、砂浜に倒れ込みました。

 

硫黄山



ボートに体力を持っていかれ、

くたくたになって走りだした二人。


そんな二人の前に現れたのが

もくもくと煙を吐き続ける怪しげな山

「硫黄山(いおうざん)」です。


硫黄で黄色く変色した岩石が

こんなに綺麗に、そして、間近で見られるのは

ここくらいなのではと思います。


圧倒的な自然を前にしてただただ謙虚に

「もっと知りたい」という感情と出会いました。


自転車ひとつで旅に出た二人ですが、

漕げば漕ぐほど、

何かに出会える。


何かが待っている。


そんな感覚にいつもワクワクしながら走っていました。


謙虚でありながら、

そこから生まれる純粋な好奇心と

真っ直ぐに向き合うことが学ぶということなのではないか、


そんなことを考えながら、

旅を続けるのでありました。

 

斜里町への道



そこからの道はとても厳しいものでした。


当たりが夕焼け色に染まる頃、

私たちは今日の宿泊地、斜里町(しゃりちょう)の

ライダースハウス・クリオネを目指して、

ひたすらペダルを回していました。


走行距離は150kmを超え、

体力的にも限界を感じる頃、

突然の雨が降り出しました。


ああ、なんてことだ!

あと数kmなのに!

私たちはずぶ濡れになりながら

これが旅か…と

ペダルを踏みしめました。


そうです。

思うようにいかないから

旅は面白いのです。


壁にぶつかって、

自分の弱さをとことん思い知らされて、

いつもどれだけ自分が恵まれた環境にいるのか、

支えられて生きているのか、

気づきます。


そんなときに一瞬だけ顔を見せる

限りなく透明な自分と出会い、

大切な何かに気づく、それが旅に出る意味なのではないか。


言葉にできるようになったのは

まだまだ旅を続けた後ですが、


あの時、雨に打たれた二人は

なんとなく、ほんの少しだけ、

旅に出ることの素晴らしさを感じていたはずです。

 

ライダースハウス・クリオネ



165kmを漕ぎ終え、

二人はなんとか今日の宿に到着しました。


その名も

「ライダースハウス・クリオネ」

まずそもそもライダースハウスってなんだ?


ライダーの家?

怪しい匂いがプンプンします。


その通り!

いわゆるライダー、

2輪の旅人だけが宿泊を許される伝説の宿なのであります。


バイクがほとんどですが

自転車も「2輪」の定義に当てはまるので

泊まることができます。


料金なんと

一泊、600円!!


これがライダースハウスの面白いところ。


“オーナーが若い頃バイクの旅をしていて、

そのときたくさんの人にお世話になったから、

今度は自分がその恩返しをしようと

格安の料金で旅を応援する”


というのがよくある話です。


旅人から旅人へ

脈々と受け継がれる人の優しさ、

人が優しさを忘れない限り、

この、旅人に受け継がれてきたバトンは

永遠に続いていくものだと、


こういった場所に来ると

確信します。


さて、

ようこそと宿を案内されると、

「いや、怪しすぎる…」


駐輪場には見たこともないような

ゴツいバイクが何台も並び、

「日本一周中」と書かれた旗がついたバイクも

5,6台ありました。


そして宿は、

薄暗い、木造の巨大なコテージという感じ、

すでに10名ほどの旅人がテーブルを囲んで

酒を飲み交わしていました。


「こ、こ、こんばんは!!」

奥平と梅村は初めて出会う旅人たちの

ものすごいオーラに圧倒されていました。


今考えると

彼らと語り合えば面白かったのにと思いますが、

二人はビビりまくり、逃げるように銭湯へ向かったのでした。

 

それから



なぜか信じられないほど、

温度が高い銭湯で疲れを癒し、

(いや、ヤケドしそうになった)


近くの食堂で

まかない用のカレーを格安でいただき、

二人は布団を並べ横になりました。


疲れからか、特に話すこともなく、

「なんか、すでに、いい旅だね」

と一言交わしてすっと眠りにつきました。


梅村と奥平の冒険は続くのでありました。

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