3年前の話をしましょう。 私(奥平)と梅村の二人の旅の原点は 「イーストブルーの冒険」 にあります。 自転車を手にした二人は 日本の東、北海道のそのまた東、 “道東”をぐるりと旅に出ます。 このルートは北海道の中でも 圧倒的な大自然を誇る、 伝説のルートです。 これまで、 奥平と梅村には守るべきものがあり、 この旅のことは秘密にしてきました。 しかし、今、3年の時を超え、 私はついに筆をとったのです。 相棒、梅村から、 「秘密の扉を開こう」と GOサインが出ました。 世界一周などもちろん、 日本縦断すら考えもつかなかった、 若き日の私たちの冒険。 さあ、準備はいいでしょうか。 馬鹿な二人の旅のはじまりを 笑いながら読んでいただけると幸いです。
自転車との出会い
私と梅村が 自転車を手にするのは必然でした。 狭い講義室、 繰り返しの毎日、 つまらないわけではないけれど、 “何かが足りない” 私と梅村は来る日も、 来る日も語り合いました。 “なにか面白いことをしようぜ” 度重なる作戦会議の末、 二人の頭に浮かんだのが 「旅」でした。 ONE PIECEを愛してやまない二人。 ルフィが小さな樽から旅を始めたように、 俺たちも広い世界に飛び出してみよう。 冷静に考えて 船には船舶免許が必要なので、 二人が旅の手段として考えついたのが 「自転車」でした。 調べ始めると どうやら“ロードバイク” という自転車があるらしい。 それも、自転車旅をするには もってこいの自転車だそうで、 最速100kmも夢ではない、 超高速自転車のようだ。 ポケモンでいうところの、 「マッハ自転車」のようなもの。 私と梅村は夢中になって 自転車を調べました。 そうして、 通いつめた自転車屋で、 ついに二人の全財産を投げ、 夢の「ロードバイク」を 手に入れたのです。 空っぽになった財布、 夏の日差し、高い空、 握っているのは憧れのハンドル、 私と梅村は有頂天、 顔を見合わせ、 そして、叫びました。 “いくぞ!!!” まさに忘れもしない、 二人の船出でした。 それから、私と梅村は 「イーストブルーの冒険」 の計画を立てつつ、 来る日も来る日も競い会うように、 ひたすらに自転車に乗りました。
崩れた夢
それから一カ月が経つ頃、 突然に悲劇は起きました。 それはまさに、青天の霹靂。 二人の希望と夢が崩れ去った 一瞬のできごとでした。 私と梅村は自転車を 宝物のように扱いました。 それはそうです。 母に「育て方を誤った」と 厳しい言葉をかけられながらも、 全財産をかけて手にした 文字通りの宝物。 そんな二台の自転車は 梅村宅の倉庫に隠していました。 誰も二人の自転車のありかは知らない、 はずでした… ある日の爽やかな昼下がり、 「今日は海沿いを走ろう!」 私は上機嫌に倉庫の扉を開けました。 ... ...ない。 二人の宝物は 忽然と姿を消していました。 愕然として、 ただただ立ち尽くし、 空っぽの倉庫を見つめていました。
執念の大捜索
ああ、 こんなことはあってはならない! 私と梅村は夢の航海を前に、 船を盗まれてしまったのです。 自慢した友達にはどんな顔をしよう。 育て方を誤った母に 追い討ちをかける とどめの一撃です。 そして、私と梅村の夢の冒険は どうなってしまうのでしょう。 空っぽの倉庫を見つめる毎日、 絶望の果てに、 私と梅村は旅を諦めました。 しかし、悔しかったのです。 旅に出られなくなったのは 35億歩、ゆずって仕方ない。 しかしだ、 私たちの船を捨てるのか? あんなに大切に、 (こっそりキスまでした) 男が夢を託したあの船を、 捨てていいのか。 海賊が船を捨てるのは、 そう、死ぬ時だ。 死ぬまで探し続けよう。 私と梅村の執念の大捜索が 始まったのでした。 警察、郵便、 リサイクルショップ、ネット、 ありとあらゆる可能性を当たりました。 ダメだ、ダメだ、ダメだ、 電話をかけるたびに、 薄れてゆく希望に胸が苦しくなりました。 痩せこけ、 髪の毛は抜け落ち、 自分を失い、 もしかすると、 テレビに映る江頭2:50が 私なのではないかと錯覚する頃、 一本の電話が希望をつなぎました。 “黒い車体に赤いタイヤ、 DEFY4というロゴ、 その自転車なら、 昨日、男性が当店に売却致しました” 「なんだって!!!!???」 二人はすぐに車を飛ばし、 リサイクルショップの扉を叩きました。 なんてことだ… そこには確かに、 私のロードバイクが値札をつけて キラキラと眩い光を放っていました。 ロードバイクのような高級自転車には 一台一台に車体番号がついています。 私が持っていった保証書と 自転車の車体番号が一致し、 ついに私は、 自分の自転車を見つけ出しました。 しかしです。 梅村の自転車の姿はありませんでした。 そこから、 警察と手を組んだ大捜索が始まりました。 私と梅村は待っていられぬと 手に入れた情報を元に、 自ら捜査に乗り出しました。 しかし、 それが危険を招いてしまったのです。 (皆様には絶対にこのような目にあってもらいたくない。 マネしないでください。) 私たちは犯人を追い詰めるあまり、 自分たちの情報もつかまれ、 しまいには家の扉を叩かれました。 それでも、 私と梅村は変装し、 息をひそめながら捜査し、 警察に情報提供を続けました。 犯人逮捕に、 時間はかかりせんでした。 リサイクルショップへの売却には 個人情報が必要であるため、 手がかりは掴んでいます。 警察の捜査で犯人は逮捕され、 自宅から梅村の自転車が押収されました。 お騒がせの馬鹿二人は、 やっとのことで、 夢を託した船を 奪還したのでありました。
旅に出よう
あの… ここまで読んでいただけた 愛すべき読者のあなた様には、 もう私と梅村がどれほど愚かで 馬鹿げたコンビであるか、 お分かりいただけたことでしょう。 本当に申し訳ないのですが、 そんな二人を、 これからも愛して欲しいのです。 どうか、 よろしくお願いします。 (もう、ご迷惑はおかけしません) さて、 旅の計画は崩れ去り、 もう夏が終わる頃です。 大捜索に一ヶ月を費やしたのです、 無理もありません。 しかし、 自転車を奪われ、 二人の夢の船出まで奪われてたまるか! “もう一度、船を出そう” 二人はスケジュールをこじあけ、 予定した半分の日程で激走する 「新・イーストブルーの冒険」 を打ち出したのです。 ついに、ついに、 北海道の東をぐるりとまわる 大冒険が始まるのでありました。 -続く- ご愛読ありがとうございます。 こんなに書き連ねておきながら、 まだ旅が始まっておりません。 次の投稿では ちゃんと旅に出られるように よく考えて書きます。
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